㈱日立製作所オートモティブシステムグループ営業本部産業機械部
担当部長 工学博士 橋本純二 氏

政府や自治体主導の地震対策、耐震偽装の社会問題などから、地震対策にしっかり取組む住宅会社を、住まい作りのパートナーとして選びたい消費者が急増しているという。このような背景の中、「耐震+制震」構造を採用する住宅会社が増加している。今回は、木造住宅向け制震工法として代表的な、GHハイブリッド制震工法の制震オイルダンパ開発者である(株)日立製作所オートモティブシステムグループ担当部長の橋本純二氏に、開発に掛けた思いを聞いた。

(株)日立製作所オートモティブシステムグループ営業本部産業機械部担当部長 工学博士 橋本 純二 氏 経歴
1976年 4月 トキコ(株)(現(株)日立製作所)入社 研究所配属 振動騒音関係の研究に従事
1998年 4月 制震装置開発プロジェクトリーダー
2000年 4月 木造住宅向け制震オイルダンパ「減震くん」営業責任者
2004年 10月 トキコ(株)が(株)日立製作所と合併。
オートモティブシステムグループ営業本部産業機器部担当部長


大手ハウスメーカーを始めとする多くの住宅会社で「耐震+制震」構造の導入が進んでいます。そもそも木造住宅向け制震オイルダンパを開発したきっかけをお聞かせください。
1990年より建築物用振動対策装置(交通振動及び風揺れ対策)として、ゼネコンやハウスメーカーと共同で、AMD(アクティブマスダンパ)の開発を行いました。これらの機械は電気部品による動力やメンテナンスが必要なのですが、高層ビル用で、動力もメンテナンスも必要のないダンパの開発要請があったのです。研究を進める中で、当社のオイルダンパ技術で適用可能であることが分かり、ビル用オイルダンパの開発を行いました。このビル用オイルダンパは、現在国内で約40%のシェアを持ちます。木造住宅向けの開発を着手したのは1993年からです。ビル用のオイルダンパで培った技術が、木造住宅の制震装置として適用できると考えたのです。

1990年に開発をスタートした超高層ビルの振動制御装置がルーツなのですね。木造住宅向けの制震オイルダンパの開発は順調に進みましたか?
残念ながら・・(笑)。社内にはダンパ屋が沢山いましたが、ダンパは自動車や機械に設置するのが一般的で、住宅に設置する発想は無く、効果を疑問視する意見が多数あったのです。しかし地震が多発する日本の中で、木造住宅向けの制震装置は必ず社会的要請が拡大するという、私たち技術者の信念で開発を継続しました。製品化が一気に進んだ要因は、1995年1月に起こった阪神淡路大震災でした。この地震では約6,400名もの命が一瞬で失われ、その原因の多くが住宅倒壊等による圧死でした。この被害状況を見て、建物にダンパによるエネルギー吸収を付加すれば、住宅の倒壊を軽減できると確信したのです。

開発に当たっては、社内の壁をも乗越える必要があったのですね。まさに信念から生まれた技術だと思いますが、技術的にクリアしなければならない問題も多かったのですか?
  木造住宅でもエネルギー吸収装置を設置すると有効だとは分かっていました。しかし、どの程度設置すればよいか、判断が難かしかったのです。当時は木造住宅に地震波を入力して測定することが殆ど行われていなかった為、広く文献などを調査しても地震時の建物の特性が把握出来なかったのです。世にデータがないとなれば、自分で測定するしかありません。自社の振動台で実験棟を建てては壊し、建てては壊しを繰り返し、基礎的な木造住宅の特性を把握しました。この実験に約2年間費やされることになりました(笑)。次にダンパの開発を進めました。先ほども申し上げた通り、社内では木造住宅向けの制震オイルダンパの効果を疑問視する意見が多数あったため、実際に阪神大震災の地震で計測された地震波を入れた実大実験を行ったのです。実験の結果、住宅の変形量を約70%低減できることが確認できました。ここでようやく社内の認識を改めさせることが出来、木造住宅向け制震オイルダンパの開発が完了したのです。

制震工法で使用されるエネルギー吸収装置には大きくオイルダンパと粘弾性ゴムの2種類があるそうですね。その違いは何なのでしょうか?
 一番の違いは温度に対する性能の変化でしょうか。オイルダンパは自動車や、新幹線等でも使用され寒い地域や熱い地域でも同一製品で問題なくご使用いただいてます。また、エネルギー吸収を行う原理が大きく違いますね。オイルダンパは水鉄砲と同じで、早く動くとエネルギー吸収を行います。大地震のような早い揺れに効果的と考えられています。粘弾性ゴムは大きく動くとエネルギー吸収を行います。建物がある程度変形した段階で、効果が現れると考えられています。


ビル用の制震オイルダンパは大型で全て専門設計品と聞きました。木造住宅で設置する装置として、コスト面で課題はありませんでしたか?
 確かにビル用のオイルダンパは直径が560ミリもあります。また専用設計品ですから、住宅向けで採用できるコストではありません。しかし、実は皆さまに提供させて頂いている木造住宅用の制震オイルダンパは、月産約250万本も製造する自動車用ショックアブソーバの量産ラインの一部で製造しているのです。既存の生産設備を活用できた為、新たな設備投資が少なくて済み、その結果多くの皆様に住宅用制震装置としてご採用頂ける価格で提供できるようになったのです。

制震オイルダンパ開発者としての「夢」をお聞かせください。
GHハイブリッド制震工法を採用いただいた建物が、宮城県で平成15年に発生した大地震で効果を発揮しました。その際お客様より、「我が家はGHハイブリッド制震工法の家だから、気持ちに余裕を持って地震に対応できた。」と地震直後に言われました。このお客様のお話を聞いて、「耐震+制震」構造の住まい作りとは、暮らしの余裕や安心感をご購入されるということなんだと思いました。この国では地震は避けて通れないものです。日本の住宅に、標準的にGHハイブリッド制震工法が採用され、地震被害がなくなり、皆様にご安心いただけるよう、今後も世の中に貢献していきたいと思います


制震オイルダンンパ「減震くん」開発者
(株)日立製作所 橋本純二 氏に聞く「私たち技術者の信念で開発を継続しました。」

(株)東建 代表取締役社長 長谷川東 氏に聞く「安心して暮らせる丈夫な家とは?」
(株)アサカワホーム 代表取締役社長 細渕弘之 氏に聞く「社会のニーズをとらえた技術革新とは?」
(株)日本中央住販 取締役営業部長 巽 泰文 氏に聞く「3つの健康と「耐震+制震」とは?」
(株)日幸ハウス 代表取締役 柳田信雄 氏に聞く「徹底した家造りへの拘りとは?」

 
 
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